山本周五郎の作品は、余計なものを極限まで削った簡潔な美しさがある。説明的な表現や心理描写ではなく、会話と動作だけで淡々と綴られる物語。かならずしもハッピーエンドではないのに、悲壮感や後味の悪さをまったく感じさせないのは、その技法によるところが大きい。
この短編集には、そんな山本周五郎らしさがよくあらわれている。それもそのはず、解説者の木村久邇典は以下のように書いている。
この文庫の短編集をひもとけば、氏の作品のさまざまなジャンルが、おおまかではあるが、読者の眼前にただちに展開するように企図した
この短編集を読んでいると、簡潔な言葉にもかかわらず、小説の中の世界が目の前に鮮やかに展開される。その秘密は、単純な言葉を少しだけ形を変えて繰り返すことにあるらしい。
“川の水は光っていた、流れながら光っていた。”
“彼はそれを長めていた。しょんぼりと立って、ながいこと長めていた。”
“彼は、好きでヤクザになったのではなかった。今でも好きではなかった。”
山本周五郎の文章は、地味なようで絢爛である、と木村久邇典はいう。
なるほど、喩えていえば、それは蒔絵のような絢爛さなのではないか。
この単行本を読めば、きっと同意いただけることと思う。