ディックの世界とはちがって、この短編集の中で描かれる世界はどれも想像が可能なものばかりです。(笑)
それでいて、素晴らしいアイディア!
特に『誕生日』のテクノロジーはすごい。実現の賛否はともかく(作品中でも物議を醸している)、これは問題への一つの美しい解答だといえるでしょう。
また、『人間の血液に蠢く蛇』は、15世紀、19世紀、そして未来の3つの時代にまたがる物語で、この不連続な時間構成は、物語の演出効果を高めています。さらに、個人の選択と人類の選択の交錯という視点が時間軸にオーバーラップしつつ、ラストシーンへと至ります。
一方、『ダンシング・オン・エア』は、能力強化技術に翻弄されるバレリーナたちの物語。能力強化による刺激的なバレエと、あくまで人間が持つ本来の力で美を表現しようとするバレエの対立―― ところが、そのテーマの上で実際に物語を展開していくのは、能力強化された犬と、バレリーナの娘を持つ母親です。そのため、物語はべたつかずにバランスよく語られます。
最後に『ルミナス』について触れておきましょう。なぜなら、これを読むためにこの本を手に取ったからです。
しかし、この『ルミナス』で説明される論理をここに要約することは非常に難しく、そういう意味ではこの短編集の中では異色といえるでしょう。あえて言えば、「数学には無矛盾性の<不備>が、宇宙の始源から散らばっている。そしてその<不備>は、テスト(証明/実験)されてはじめて真偽が決定する。ただし、…あぁ、やっぱり簡単に説明することはできません。実際、この物語の1/3はこの論理を私たちに理解させるために費やされます。そして、1/3は敵対する組織との息詰まるアクション映画のようであり、残りの1/3ではスーパーコンピュータ「ルミナス」の上で繰り広げられるたった30分間の計算に息をのむことになります。極彩色で描かれた物語の多いこの短編集にあって、この『ルミナス』だけが冴え冴えとした銀色の光を放っているのです。
SF短編集(傑作選)の醍醐味って、こういうものなのかなぁ!
そう思った一冊でした。
◇収録作品◇
マックたち(テリー・ビッスン)
ホームズ、最後の事件ふたたび(ロバート・J・ソウヤー)
理解(テッド・チャン)
誕生日(エスター・M・フリーズナー)
フローティング・ドッグズ(イアン・マクドナルド)
標準ローソク(ジャック・マクデヴィッド)
人間の血液に蠢く蛇―その実在に関する三つの聴聞会(ジェイムズ・アラン・ガードナー)
ルミナス(グレッグ・イーガン)
棺(ロバート・リード)
ダンシング・オン・エア(ナンシー・クレス)
小さいころはディックもよく読みました。短編の方が好きでしたが、特に「CM 地獄」「ゴールデンマン」、長編では「ユービック」「高い城の男」が好きでした。他にも好きな作品はいっぱいあります。
昔は「まだ人間じゃない」の意味がよく分かりませんでしたが、今、読み返せば前とは違った印象がある気がします。
90 年代の SF はほとんど読んでいませんが、suomi さんの blog を拝見していたら無性に「90年代SF傑作選(下)」が読んでみたくなりました。今日は図書館に寄ることにします。下巻を読んだら上巻も読みたくなりそうな気がしてます。。。
小さいころの楽しみは「読書とスポーツ」で、小・中学の頃は友人とディック作品の貸し借りをすることもありました。今の “一番の楽しみ” は「寝ること」ですが・・・
図書館に寄ったのですが「SF 傑作選」は置いてなかったので森博嗣さんの作品を借りてみました。私は「音」を「色」に感じたり、その逆も出来ないのですが「そして二人だけになった」の VA コンバータの下りは(ちょうど逆ですが)suomi さんの「色と音」の話を連想させました。
関連記事にあるディック作品のうち「あなたをつくります」だけ読んだことがありません。おかげで、またひとつ「これから読む楽しみ」が増えた気がします。
小さいころはディックもよく読みました。短編の方が好きでしたが、特に「CM 地獄」「ゴールデンマン」、長編では「ユービック」「高い城の男」が好きでした。他にも好きな作品はいっぱいあります。
昔は「まだ人間じゃない」の意味がよく分かりませんでしたが、今、読み返せば前とは違った印象がある気がします。
90 年代の SF はほとんど読んでいませんが、suomi さんの blog を拝見していたら無性に「90年代SF傑作選(下)」が読んでみたくなりました。今日は図書館に寄ることにします。下巻を読んだら上巻も読みたくなりそうな気がしてます。。。