HOME > 『特別支援教育のためのアスペルガー症候群の医学』
« 『アイディアのつくり方』 ジェームス・W・ヤング (TBSブリタニカ) | 『人生論』 デール・カーネギー (創元社) »

『特別支援教育のためのアスペルガー症候群の医学』

 
著者は、お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター教授である榊原洋一。学研のヒューマンケアブックス。
特別支援教育の流れを受け、アスペルガー症候群などの軽度発達障害の子どもたちについての理解を広めようという意図で書かれた本。特に後半が面白い。終わりの方では脳科学についても触れ、最新の検査法などについても説明される。全体的にわかりやすく書かれていてたいへん読みやすい。難しいことでも平易に書くことができるという好例だろう。

私は心障学級をなくそうという特別支援教育には疑問があるのだが、それはこの本とは関係ない部分なのでまたそのうち機会があれば書きたいと思う。

前半で面白かった話題として、「心の理論」がある。「心の理論」がわかるかどうかを試す課題というのがあるそうだ。
サリーとアンの課題
場面1=部屋の中で、サリーとアンという女の子が遊んでいる。サリーは人形で遊んでいる。サリーは飽きたので、自分の人形をんたんすの引き出しにしまって庭に出る。
場面2=アンはサリーの人形で遊びたくなり、引き出しから出して遊ぶ。
場面3=アンも人形に飽きたので、それを自分のかごにしまう。
場面4=そこに、庭からサリーが帰ってくる。また人形で遊ぼうと思う。
設問=サリーはどこをさがすだろうか?
オリジナルの課題では、人形ではなくおはじきで遊んでいたことになっているが、大人ならだれでも、サリーは引き出しをさがすと答えるだろう。
しかしこの課題は、四歳までの子供や高機能自閉症の人では正解率が低いのである。

人形がかごに入っているという事実と、サリーの認識が区別できるかどうかという問題。簡単なものから複雑なものまで同様な問題はたくさんあるそうだ。

スマーティの課題
スマーティの課題というのも有名だ。スマーティという名まえのお菓子の箱を使って行う課題だ。
大人=スマーティの箱(中には、スマーティではなく鉛筆が入っている)を子どもに見せて、「中に何が入っていると思う?」と聞く。
子供=「スマーティ」と答える。
大人=「では、開けて見てごらん」
子供=(開けて、中に鉛筆が入っていることを確認する)「鉛筆だ」
大人=(これが設問になる)「では、○○ちゃん(子どもの友人)に、この箱に何が入っているか聞いたらなんて答えるかな?」
私たち大人は当然「スマーティ」と答えるだろう。しかし、やはり四歳以下の子どもや高機能自閉症では、「鉛筆」と答えることが多くなるのである。

後半の話題で面白かったのはやはり最新の検査機器・検査方法についてだ。以前はCTやMRIで脳の構造を視覚化する検査法だったが、今は、脳の機能を視覚化することができるそうだ。ある脳活動を行ったときに、脳のどの部位が活動しているのかわかるという。

【機能的脳画像検査法の紹介】
・PET (positron emission tomography)
・SPECT (single photon emisshon computed tomography)
・機能的MRI (fMRI)
・MEG (magnetoencephalography=脳磁図)
・NIRS (near infrared spectoscopy=光トポグラフィー)

ハッペは、「心の理論」課題遂行時の脳内過程をPETで調べた。(中略)
つまり、アスペルガー症候群の人は、心の理論課題を理解するために、非アスペルガー症候群の人とは異なった脳部位を使用していることが示唆されたのである。

最後に。
平成16年12月、発達障害者支援法が成立した。拘束力を持たない理念法ではあるが、発達障害に対して、社会が正面から取り組んでゆこうという理念が示されている。発達障害以外の障害を無視した問題のある法律であるという見方もあるが、そうした理由で反対を叫ぶのではなく、理念を現実にしてゆく作業に力を注ぐべきであろう。
特に、本法の中に提案されている「発達障害者支援センター」の実現化に向けて、教育・医療・行政が専門性の枠を越えた作業を早急に開始すべきだろう。
アスペルガー症候群に限らず、数多くの発達障害の子どもたちが、この、今も感じつつある「生きにくさ」をなくすために。


   

2005年07月30日 [実用書] by スオミ - No Trackbacks このエントリーを含むはてなブックマーク このエントリーをはてなブックマークに追加 6249

サイト内関連記事 : 自閉症


スポンサードリンク


コメント

No comments yet

コメントを追加

* コメントにURLを書くとブロックされます。
 (私が気付いたときは解除されることもありますが。)
* スパムブロックのため、コメントの反映に時間がかかることがあります。




TrackBack


* 現在、当方へのリンクがないTBは受け付けておりません。
* 当方へのTBの一覧のリンクはリダイレクトされています。SEO目的のみのTBはあまり意味をなさないと思いますのでご遠慮ください。




この記事へのトラックバックurl:http://www.lacrime.net/action.php?action=plugin&name=TrackBack&tb_id=1309 (右クリックでショートカットのコピーをご利用ください)