「僧になりたい、と息子が言い出したときには、驚いた。」
そんな文章で始まるこの小説は、小学校のときからの希望をかなえて中学で寺に入ってしまった長男と、それを通して歪みの見えてきた「ぼく」と「妻」の物語である(いや、妹もいるのだが)。
時代はまだ『一休さん』を放映している頃で、「ぼく」は、アメリカを放浪した後帰国し、奇妙な縁から毎週日曜に禅寺へ通っている。そんな設定で、物語は淡々と過ぎていく。不思議な読後感のある作品だった。
表題のほかに2編、『トンボ眼鏡』『黒い海水着』という小品が収録されているが、この2編も、男の視点から「どうにも妻とかみあわない」という状態を描いている。
むしろ、この2編を読まないほうがよかった。これらを読んだせいで、せっかくの『長男の出家』がなんだか台無しになってしまった気がする。