「本って、お風呂の黴と一緒で、放っておくとどんどん増えていくから困っちゃうんだって」
「実はわたしが読んだ本に、確かビジネス書だったと思うんですけど、書いてあったんです。『新しいことをはじめるには、三人の人に意見を聞きなさい』って」
「三人?」
「そうなんです。まずは尊敬している人。次が、自分には理解できない人。三人目は、これから新しく出会う人」
「俺は、俺を許すのか?って。練習の手を抜きたくなる時とか、試合で逃げたくなる時に、自分に訊くんです。『おい俺、俺は、こんな俺を許すのか?』って」
「お金っていうのはさ、有意義な研究じゃなくて、面白そうな研究とか役に立ちそうな研究に集まるんだ」
「『役に立ちそう』と『有意義』は同じ意味だろ」
「矢部君、本気で言ってるの?」彼はまた言った。「全然、違うって。役に立つ、のと役に立ちそう、というのは別物だよ。偉い人と、偉そうな人ってのが全然違うのと同じでさ。役に立つように見えれば、いいだけなんだよ。だから、科学者はいつも、危険を煽るんだ。…」
「そういうものか」
「軍隊とか諜報機関が、危険だ危険だ、って叫ぶのと一緒。危険を煽って、予算をもらう」
「他人を蹴落としても、無我夢中で生きるわけだ」
私は顔をしかめた。「気の利いた言葉かな、と思ったら、何だか嫌な、生々しい話ですね」
「そりゃ、そうだ。これは嫌な、生々しい話なんだ」
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