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『なぜ日本人は劣化したか』 香山リカ (講談社現代新書)

 
この本では、数値や他書の引用を用いて個人の劣化、社会の劣化をまず目の前に突きつける。そして、それらを分析していくことにより、誰もが漠然と感じているであろう「劣化」を、単なる個別の症状の現れではなく、その背後にある病態を意識することで統合的に捉えることができる、そうすることで「劣化」を食い止めることができるのではないか、とかすかな希望を掲げるのだ。


以下、メモと感想。

◆女性編集者の視点から。15年前はひと息で読めるのは800字と言われていたのに、今はひと息200字。それより多いと読んでもらえないという話。

ここで、この本の文字数はどれぐらいなのだろう?と数えてみた。単純計算して、39文字×15行=585文字。ということは、改行や引用によるスペース消費を考えると、15年前はだいたい2ページをひと息で読んでいたのが、今は1ページの半分ぐらいしか読めないということになる。ちなみにこの本は9章に分かれていて、一つの章はだいたい8〜16ページぐらいで構成されていることが多い(テーマの違いや図表や引用の多寡にもよるのだろう)。Amazonの書評で「話題もコロコロ変わってしまい、落ち着きがない」と書いている人がいるが、実は香山は「ひと息で少ししか読めないというのはこういうことなのよ」と示してみたのではないかと勘ぐってみたり。(笑)

◆日経新聞は、1986年6月までは本文一行の文字数は15字だったが、だんだん減って2002年4月には1行11文字になった。情報量にすると、約2/3になったことになる。読みやすくするためというが、老人向けではなくむしろ若者向けかも?

◆あらすじやサビだけの本や音楽が流行っている。
◆2006年のゲーム売り上げベスト10に入ったRPGはファイナルファンタジーだけ。脳トレや料理などの実用ソフトが売れる。

私は、世の中でいろいろ起こる悲しいことの原因の大半は「想像力の欠如」ではないかと昔から思っていた。そう思うと、RPGとはいうまでもなく「ロールプレイングゲーム」なわけで、まさに役割を演じるということ。たいていそれは世界を救うヒーロー役なんだけど、それでも仲間を気遣ったり、世界の平和と自分や仲間の幸せの間で葛藤してみたりといろいろな想像をすることになる。今時、そんな面倒くさいことやってられない、って時代になってしまっているのね…。

ここで思い出したのは、またもや『ぼくらの』のキリエ(3巻表紙の右奥の子)。彼は、映画などの主人公どころかむしろその敵役や周りでとばっちりを食らう人々のことを想像してしまう。だから、ハッピーエンドで主人公が笑っているのを見ても共感できない。多くの人を殺してまでつかまなきゃいけない幸せなんてあるんだろうか、と。(あーうー、なんだか『ぼくらの』って教育マンガなんじゃないかって気がしてきた…)

◆アメリカの劣化、「ゼロ・トレランス」。アメリカの犯罪学者ジョック・ヤングが『排除型社会』で警鐘を鳴らすゼロ・トレランスについて。また、排除型社会の裏にはノスタルジーが潜んでいる。

日本でも『ALWAYS 三丁目の夕日』や『東京タワー』が流行ったな…というのが軽いショックというか、納得させられたというか。

◆新自由主義が社会の劣化を招いた原因であるという話。
グローバリズムや新自由主義、もっと言えば強者の論理にもとづく市場主義や拝金主義は、日本を一流国にしなかったどころか、もともとあった“よいもの”までを次々奪ってしまったのである。

◆「劣化」を「進化」と思い込むことの危険性。セカンドライフのブーム。
いまのところ、「セカンドライフ」内の住人達はモラルも高く、友愛的で、知的好奇心も高く、現実で見られるような劣化は進行していないようだ。とはいえ、現実に見切りをつけてこの仮想空間に居を移すことじたいが、ある種の劣化だと考えることもできる。あるいは、現実の社会、人間の劣化が止めようもないくらい進んだからこそ、この「セカンドライフ」が移住先として熱望された、という解釈も可能だ。

もしかしたら、数年後には「セカンドライフ」も劣化してるかも…?そしたら次はサードライフか。と思って気付いたけど、いつの間にか「セカンドライフ」というと仮想空間のセカンドライフのことになっちゃってるなぁ。そこからしてすでにヤバイんじゃないかと思ってしまった。リアルなセカンドライフ、サードライフから目をそらしてるんじゃないだろうか…。

◆カントの「超越論的仮象」と柄谷行人の「理念」の話。

スピリチュアルの話が突然出てきて笑ってしまった。
いや、もっとひどい事態も考えられる。カントの言う「超越論的仮象」はすでに実現していて、それは柄谷氏の考えるような“他者を手段としない互酬的な世界の実現”などではまったくなく、“前世のせいで今も結婚できない”"守護霊の教えに背かないよう年長者に仕える“といった今のいわゆるスピリチュアルブームがそれではないか、ということだ。”環の外“を求めるのはたしかに必然かもしれないが、それを考えたとたん、人は”ちょっと外“ではなくて、呪いや心霊と言った”はるか外"まで飛んでいってしまいがちなのではないか。

◆とにかく、「自分たちは劣化している」という病識を持つこと。そのためには、自分で自分を見る俯瞰の視点を持つこと。ただ、そのメタの視点すら劣化している可能性があるが…。
◆劣化は結局のところ損。そんな意識からの対策もまたありだろう。とにかく今は食い止めなくては。


うんうん、社会や他人はたしかに劣化してるけど、私は別に劣化してないよね…と思いながらこの本を読んでいたけど、それはメタ視点が劣化してるからそう思っていただけだなぁ、きっと。いつの時代も「最近の若い者は…」と言われるわけだし、そうでなくとも自分の親が「まったくこの子は…」と思ってることは想像に難くない。こまごま挙げていくと落ち込むからやめておくけど、とにかく今は、私自身も劣化しているということを心に刻みつつ、社会のために自分のできる範囲でできることをやっていきたい。

2007年09月20日 [一般] by スオミ - No Trackbacks このエントリーを含むはてなブックマーク このエントリーをはてなブックマークに追加 1354

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コメント

» [cipher] さん:

また面白そうなのを・・・。
ありがとうございます、ありがとうございます(謎)

2007年09月21日 12時30分29秒 

» スオミ さん:

香山リカ、何冊か読むとだんだん繋がってきました。
もう何冊かは楽しめそうですよー。
[cipher]さんも体と心をお大事に・・・。

2007年09月21日 17時46分02秒 

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